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カルテ開示と証拠保全、どう違うかご存じですか?
医療事故・医療過誤の事案の解析には、カルテが必要です。カルテ開示と証拠保全。どちらもカルテを取得するための手続きですが、どちらを選べばよいのでしょうか。両者を比較してみましょう。
カルテ開示の問題点を知りたい方はこちらもご覧下さい
平成15年9月に、厚生労働省が「診療情報の提供等に関する指針」を出したことで(平成15年9月12日、平成22年9月17日一部改正)、患者さんからカルテ開示の請求をすれば開示する医療機関が多くなりました。
そして、平成29年5月30日に、個人情報の保護に関する法律が全面施行され、小規模の診療所も含めて、すべての医療機関に個人情報保護法が適用されることになりました。
しかしながら、現在でも、患者がカルテ開示を求めても拒否する医療機関があります。
また最近、電子カルテシステムをとっている医療機関で、カルテの記載が改ざんされたという事例も明らかになっています(第一審:大阪地方裁判所平成24年3月20日判決、控訴審:大阪高裁平成25年1月30日判決)。
このように、カルテ開示の制度には一定の限界があると言えます。
これまで私(と私の依頼者さん)が経験した、カルテ開示の拒否ケースからいくつか…
【CASE1】死亡した患者さんのご遺族がカルテ開示を請求したら拒否された。
【CASE2】「カルテ開示は自分でやりました、送られてきたのがこれです!」とお預かりして私が精査してみたら、N回(5回以上)されている手術の、①術中記録が1回しかない、②術前説明をした箇所がカルテのどこにもない(開示拒否じゃなくて、②がひとつも存在しないのならそれはそれで…)
【CASE3】CT、MRI画像の一部しか渡さない。読影レポートを交付しない。
これに対し、裁判所による証拠保全は、以下の点においてカルテ開示より優れていると思います。
最近は電子カルテの病院が多いですが、電子カルテでも、事後に書き加え(改ざん)がされた事例がありました。
証拠保全は、医療機関には知られない形で裁判所の決定が出されます。
そして、医療機関に対しては事前の予告なく、執行官が赴いて決定を渡します(送達)。
この送達から30分~1時間後に、裁判所(裁判官)が医療機関を訪れてカルテ等の保全を行います。
医療機関側からすれば、ある日突然、裁判所の決定が届き、そのすぐ後に裁判官が来る、ということになります。このようにして、医療機関が対象のカルテ等を改ざんする余裕を与えないようにしているのです。
カルテ開示の限界
カルテ開示の場合ですと、交付を受けた記録がカルテの全てかどうか確認することができません。また、紙カルテの場合、コピーと原本とを照合して確認することもできません。
コピーと原本との照合(紙の場合)
しかし、証拠保全の場合には、検証の対象に「その他○○○○の診療に関して作成された一切の文書(電磁的記録を含む。編集更新履歴を含む。)及び物」との一文が入ります。
そして、証拠保全の現場において、裁判官が医療機関に対して、当該患者のカルテについて一切を提出しているかどうかを直接尋ねて確認し、紙カルテの場合は全てコピーと原本とを全て一枚一枚照らし合わせて確認をします。
患者側代理人も、証拠保全の現場において提示されたカルテ等を見て、漏れがないかを直接確認することができ、裁判官と一緒に原本との照合・確認をします。
編集更新履歴の出力(電子カルテの場合)
また、電子カルテシステムを取っている医療機関の場合には、証拠保全によってカルテを保全する場合、「編集更新履歴」も保全の対象になります。これによって、更新履歴を反映させた形で該当部分を出力(印刷)してもらうなどして、カルテの記載の更新履歴を確認することができます。
証拠保全は、当日大変な労力がかかります。裁判所はもちろん、当日いきなり訪問を受けて、立ち合いをさせられる医療機関の職員の方も大変です。そのことにはいつも気を配っております。
実際には、上記のメリット・デメリットを前提に「病院の規模、カルテの管理状況」「カルテの種類(電子カルテかどうか、どのような記録等があると予想されるか)」「対象となる医療事故・医療過誤の事案の争点及び重要となる証拠は何か」等も併せて検討しています。その上で、ご依頼者様のご意向もよくお聞きします。
ご相談者様おひとりおひとりの状況が違いますし、お考えもそれぞれですので、答えは一律には決まらず、それぞれに置かれた状況に合わせて決めてゆきます。
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(弁護士 小野郁美)
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